little by little
してるときは夢中で、何が何だかわからなかった。
その人の、肌の甘さ。淫らにのたうつ体の熱さ。背に縋る腕の、必死な力。信じられないくらいに、高く上がる声。
そうして、中の、気持ちよさ。
それで、ぜんぶで。
思うさま吐き出して、それでも放し難くて、たくさん、キスをして。
やさしく応えてくれるのに満足しながら、「抜いてくれ」と、恥ずかしそうに訴えられて、「まだ、やだ」とか、我侭を言ってみて。
それでも、ひくひく蠢いてる中に突っ込んだままだと、もっとしたくなってしまいそうで。
「シン・・・」
初めて聞く請うような声に、仕方無く抜き出そうと繋がった場所に目をやって、シンは思わず声を上げた。
「うわぁっ！」
いまだ、シンを受け入れたままのそこから、白い色の目立つ脚へ、腹へ。更に、淡い茂みと、シーツまで。
真っ赤な血が、その人の下肢をべったりと濡らしていた。
汗と、互いの放ったものでぐしゃぐしゃに濡れていたから気がつかなかった。
というより、ずっとそうだと思い込んでいたのだ。
「ん・・・どうした・・・？」
アスランは気づいていないのか、小首を傾げてだるそうにきいてくるから、シンは慌ててそこから自身を引きずり出す。
入り口を塞いでいたものがなくなって、ごぷりとシンの放った白いものと、更に赤い血が溢れてきて、シンは泣きたくなってきた。
「ごめんなさい！うわ、これ・・・」
パニックを起こしかけ、わたわたと慌てるシンを見上げ、それから自分の下肢を確認し。
アスランは、「ああ」と、何でもないことのように呟いて、軽く笑って
「初めてなんだから、仕方がないさ。上手い方だったと思うぞ？」
「あ、あんたってひとはーーー！」
あからさまな慰めの言葉に、シンは叫ばずにはいられない。
腹が立つんだか申し訳ないんだかわからないが、とにかく泣きたいことだけは確かだ。
そんなシンにはおかまいなしで、小さく呻きながら身を起こしたアスランは、慣れた手つきで枕カバーを引き剥がし、赤く濡れたそこを拭いだす。
真っ赤な血と、シンの放ったものと。それから腹の辺りを濡らした白いものは、どう考えてもシンに穿たれて、アスランの放ったもの。そんなものを、無造作にごしごしと擦るアスランに、シンは思わず見とれて。
我に返って、慌てて。
「あ・・・っ、俺、タオル濡らしてきます。じゃなくて！風呂行きましょう、風呂。えっと・・・救急箱！」
パニックを起こしつつも、事態を収拾しようと動き出すシンにくすりと笑い、アスランはこくりと頷いた。
「そうだな。これだけ汚すと・・・」
アスランが拭ったばかりのところから、たらっ、と、新しい血がこぼれて。
「うわ・・・」
慌てたシンは、がばりとアスランを抱き上げた。
「医務室行きましょう！」
「行けるか馬鹿！」
殴られて、シンはちょっとだけ冷静になった。
「あ・・・じゃあ、とりあえず風呂」
「行くから、下ろせ」
いわゆる、「お姫様抱っこ」されてしまったアスランは、居心地悪げに身をよじった。
シンの腕力は信用しているが、自分の方が体格が良いのだ。安定悪いことこの上ない。
「下ろせませんよっ！」
しかしシンはそう吠えると、そのままばたばたとアスランを運び、器用に足で浴室のドアを開けた。
浴室と言っても、部屋付きの小さなシャワーブーズだ。軍人としては小柄なシンとアスランでも、二人で入れば当然狭い。
それでも構わずシャワーのコックをひねり、うっかり冷水を被って悲鳴を上げたシンに、アスランはため息をついた。
「自分で洗うから」
「洗わせてください！」
まるで、耳と尻尾を垂らした子犬の顔だ。アスランは、シンのこの顔にとてもとても弱いのだけれど。
「自分で洗うから。救急キット持って来い。机の引き出しの中だ」
犬は、子供のうちにちゃんと躾けておかなければ。
それを知っているアスランは、びしりと部屋の方を指差した。
「取って来い」
それでも、ダッシュで出て行ったシンの髪がぐしゃぐしゃに濡れているのと、自分の足先にかかった水の冷たさに、戻ってきたら熱いシャワーを浴びさせてやらなければ、と、結局甘いことを考えていたのだけれど。
「救急箱・・・あった！」
置き場所は個人でまちまちだが、軍支給の救急キットだから形状はシンが持っている物と同じだ。すぐに見つかったそれを引っ掴んで駆け戻り、そうして開きっぱなしだった浴室のドアの前で、シンは思い切り固まった。
奥の壁に縋るようにして、膝を付いて緩く脚を開いたアスランが、シンを受け入れて傷ついたそこに、指を差し込んで押し開いていたのだ。
降りかかる湯気の立った湯に、赤い色の混じったものが、上気した腿の内側を、つうっと伝って落ちている。
「わぁっ！」
思わず叫んだシンを振り返り、アスランは「何を騒いでいるんだ」と呆れたように呟いて、つるりと指を抜き出して、その手をシンへと伸ばしてきた。
「傷薬入ってるだろ。貸してくれ」
血ィ付いてますその指―！
「お、俺がやります！」
「いや、自分で・・・シン！」
その場で救急キットをぶちまけたシンは、足元に転がった消毒液と消炎剤と絆創膏を掴み上げ、どうやって張るんだよと内心突っ込んで絆創膏だけ放り出して。
「えっと」
液体の消毒液を開けて、結局どうしていいかわからずに途方に暮れた。
「だから貸せよ」
それをアスランにひったくられて、血の滲む入り口にそれをかけ、顔をしかめるのを眺めてしまってから、慌ててそれを奪い返す。
「じゃ、中も」
そうしてそこに指を伸ばそうとして。
「いい！中はいい！！」
思い切り拒否された。
「なんで！」
「染みるんだよ中は。消炎剤だけでいい！」
ホントかよ、と呟きながら、それでも素直に消炎剤のチューブから、透明なジェルを指に乗せたシンを見て、アスランは大きく首を振った。
「だから自分で・・・んんっ」
「手当てくらい、させてくださいよ・・・」
半泣きの少年の声。
経験のない彼に、傷ついたそこを弄られる怖さに引きつっていたアスランも、その指がゆっくりと、優しく中に塗り込めていくのを感じて、そっと体の力を抜く。
「丁寧に、やれよ」
「やってます」
うん。まあ。
初めてだから、いろいろ慣れていないだけで、基本的には優しくて丁寧に扱ってくれるし。
体の相性も、悪くなさそうだし。
もう少し、面倒を見てやれば、良い相手になるんじゃないかと思う。
なるといいなと、思う。
だってシンは可愛いし。
イトシイ、と思うし。
「あ、もしかして気持ちいい？」
しかしそう思ったところで素っ頓狂な声を上げられて、アスランはふと我に返った。
心と体は直結だ。可愛いなとか、愛しいなとか思ってしまったから、体が、うっかり。
「――――っ！」
振り返って睨めば、尻尾をぱたぱた振りそうな、嬉しそうな少年の顔があって。
「ねえ、イイ？」
「反省したのかこの馬鹿！」
アスランの可愛い恋人候補は、やっぱり、まだ子供だった。